山村高淑 school icon

北海道大学 観光学高等研究センター 教授

プロフィール

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コンテンツツーリズム研究:科研費基盤(A)

「‘contents tourism’を通した文化の伝播と受容に関する国際比較研究」が科学研究費助成事業・基盤研究(A)として採択され、 2014年4月1日から2019年3月31日までの予定で開始となりました。国際チームによる共同研究で、代表をフィリップ・シートン北海道大学教授が務め、山村はジョイントリーダー(研究分担者)を務めます。

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研究チームのメンバー

プロジェクトリーダー(代表者):フィリップ・シートン(北海道大学)

プロジェクトリーダー(分担者):山村高淑(北海道大学)

分担者:西川克之(北海道大学)、岡本健(奈良県立大学)、須川亜紀子(横浜国立大学)、山田義裕(北海道大学)

協力者:スー・ビートン(ラトローブ大学)、張慶在(ジャンギョンゼ、北海道大学)、クロチルド・サブレ(北海道大学)、リチャード・シドル(北海道大学)

研究の目的

本研究の目的は以下の二点です。第一に、コンテンツツーリズムをポップカルチャーの伝播と受容の側面から捉え直すことを通して、そうしたツーリズムが他者理解に果たす役割を明らかにすること。第二に、これを踏まえて、日本の置かれている地政学上とりわけ国際的な相互理解が求められている東アジア地域に着目し、日本のコンテンツをきっかけとしたコンテンツツーリズムが、日本の文化的安全保障に向けてどのような可能性と課題を有しているのか考察を行うこと。なお、本研究は以下に詳細を記すように、本研究チームがこれまで数年来、国際的にも先駆的に実施してきた国内外のコンテンツツーリズムの動向調査の成果を、学際的・国際的研究として大きく発展させることにより実施されます。

研究の背景

日本においては、2003 年の小泉内閣による観光立国宣言、2006 年の「観光立国推進基本法」の成立など、21 世紀の国家政策の柱の一つとして「観光」が位置付けられ、産官学をあげて観光産業の育成や観光を通した地域づくりの取り組み・研究が進められてきました。そうした中で、マスツーリズムに代表される従来型の観光のあり方が、時代・社会の要請に十分対応できていないことが指摘されています。つまり、情報社会化の進展に伴い、モノから情報=コンテンツへ価値の重点がシフトしていくなかでの、観光資源のあり方、観光という仕組みのあり方の再定義が問われるようになっているのです。こうした文脈から新たな観光のあり方を提言した代表的な報告が、2005 年に国土交通省・経済産業省・文化庁が共同で作成した「映像等コンテンツの製作・活用による地域振興のあり方に関する調査報告書」でした。すなわち、「地域に関わるコンテンツ(映画、テレビドラマ、小説、マンガ、ゲームなど)を活用して、観光と関連産業の振興を図ることを意図したツーリズム」のことを「コンテンツツーリズム」と定義しました。本研究におけるコンテンツツーリズムも、アニメ・マンガに関するものだけでなく、こうした広義の定義に従います。

こうして、現在、日本では、コンテンツツーリズムの創成と振興に向けた様々な取り組みが各地で推進されるようになってきていますが、こうした取り組みは各自治体が試行錯誤を繰り返している段階で、情報共有や、成果の分析・評価、汎用性の高いモデル化等はほとんど行われていないのが実情です。また、観光研究分野はじめ関連する学術分野においては、やっとコンテンツツーリズムが研究対象として取り上げられるようになってきたばかりであり、学術的研究蓄積はほとんどないのが実態です。さらにこうした数少ない先行研究も、国内事例を対象に、地域振興論やまちづくり論、旅行者行動論としてアプローチされているものがほとんどであり、日本のコンテンツが海外へどのように伝播し、当該国民に受容され、そして日本への旅行行動を誘発しているのか、そしてそうしたツーリズムが他者理解をどのように促進し得るのか、というコンテンツの国際伝播・受容、文化的安全保障の観点から論じた研究はほとんどありません。

また、海外においても、これまで映画やドラマゆかりの地(ロケ地や映画スタジオなど)を巡る旅を,film induced tourism(映画によって誘発される旅)と呼んで取り扱うことが多かったのですが、近年ではfilm tourism(フィルムツーリズム)という呼称も普及し、日本の「観光立国推進基本計画」(2007 年)でもニューツーリズムのひとつとして取り上げられています。しかしながらコンテンツツーリズムという観点から体系的になされている研究成果は、内外いずれにおいても、新たな概念ということもあり存在していません。また、コンテンツツーリズムに含まれるアニメやマンガ、ゲームなどを活用したツーリズムと、従来のフィルムツーリズムとの類似点と相違点についても、未だ本格的な議論がなされていません。

実態としても、広く海外では日本のポップカルチャー・コンテンツが評価・支持されており、作品の舞台となった場所等、そうしたコンテンツとゆかりのある日本の土地を訪れる外国人旅行者は増加傾向にあります。とりわけ、東アジア地域からのこうした旅行者が増えていることは、近隣諸国と様々な政治的懸案を抱えている日本にとって、文化的安全保障を構築していくうえでコンテンツツーリズムが果たし得る役割を示唆しており、極めて重要な政策的意義を持つものと考えられます。

本研究はこうした学術的、社会的背景を踏まえ、以下の二点を明らかにすることを大目的とします。第一に、コンテンツツーリズムをポップカルチャーの伝播と受容の側面から捉え直すことを通して、そうしたツーリズムが他者理解に果たす役割を明らかにすること。第二に、これを踏まえて、日本の置かれている地政学上とりわけ国際的な相互理解が求められている東アジア地域に着目し、日本のコンテンツをきっかけとしたコンテンツツーリズムが、日本の文化的安全保障に向けてどのような可能性と課題を有しているのか考察を行うこと。なお、本研究における「ポップカルチャー」の定義は、外務省「『ポップカルチャーの文化外交における活用』に関する報告」(2006年11月9日)に従うものとします。すなわち、「一般市民による日常の活動で成立している文化」で、「庶民が購い、生活の中で使いながら磨くことで成立した文化であって、これを通して日本人の感性や精神性など、等身大の日本を伝えることができる文化」を指します。